機材レビュー:カンパニョーロ コーラス

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先日、古くなって限界にきたロードバイクのコンポーネントを新しいものに買い替えました。

それまで使っていたのは10速の105(シマノ)でしたが、冒険してカンパニョーロ(Campagnolo)の「コーラス(Chorus)」を選んでみました。

このコーラスがとても良かったので、紹介します。

目次

製品概要

コーラスはイタリアのカンパニョーロ社(以下、カンパ)が製造・販売しているコンポーネントのひとつ。

主流でないメーカーの製品であるコーラスを購入した理由は大まかに以下。

  1. 機械式リムブレーキ用であれば、約20万円(大手3社の12速ロードバイク用コンポーネント内では最安)。
  2. フロントも「乙女ギア」にできる(48/32T×11-34Tというギア構成が可能)。超激坂でも楽できそう。
  3. シマノ以外のメーカーにしてみたかった。

要点

組み付けてもらったショップから自宅まで乗って帰る時点でもう印象が良く、4ヶ月ほど山岳ロングライド中心に運用してみてもその印象は変わりません。非常に良い製品だと思います。

コーラスの良いところは以下のように整理できます。

  1. 洗練されたデザイン
  2. 直感的で扱いやすい設計および仕様
  3. 独自のフィーリング/走行体験

「敢えてカンパを選んで良かった」と思わせてくれたのは3番目です。全体として格段に快適になり、走っているときにより気持ちよくなれるようになりました。

洗練されたデザイン

デザインはカンパ製品の大きな特徴のひとつ。コーラスは普及グレードにあたりますが、作りはとても上質です。

組み上がったバイクはきゅっと引き締まったような印象に。ぱっと見あまり自己主張をせず、フレームの引き立て役に徹してる感。

細部もいいです。たとえば、クランクはカーボン製。クランクセット全体ではマット感と光沢感が違和感なく同居していて、すっきりしたフォルムも美しい。上品な感じ。

こんな風に逆光で撮っていて気づきましたが、ハンドルの形状もすらりと長く、特徴的です。

リアディレイラーにもカーボンが使われていて豪華な感じ。

1個1個のパーツがワンポイントになるように形づくられていて、ライドの合間合間に目を楽しませてくれます。

直感的で扱いやすい設計

操作系がよく整理されているなど、感覚的に理解しやすいような作りになっています。よくカンパは直感的と言われますが、それは自分もそうだと思います。

(この章はかなり細かい話になっているので、あまり興味がない方はいったん飛ばして先に進んでいただいたほうがいいです)

レバーが超いい

カンパのレバー「エルゴパワー」は、シマノのデュアルコントロールレバーとは操作方法が異なります。

一部の変速操作をレバーの内側にある親指で押すボタンで行うようになっているのがシマノとの最大のちがいです。

ブレーキレバーの裏にシフトレバーがあるのは同じです。

左手でフロントを、右手でリアを上げ下げします。操作系を整理するとこんな感じになります。

フロントリア
シフトアップ左人指し指〜薬指でシフトレバーを倒す右親指で変速ボタンを押し込む
シフトダウン左親指で変速ボタンを押し込む右人指し指〜薬指でシフトレバーを倒す

シマノ(自分が使っていた旧105)と比べると、差が見えてきます。

フロントリア
シフトアップ左人指し指〜薬指でシフトレバー+ブレーキレバーを倒す右人指し指〜薬指でシフトレバー+ブレーキレバーを倒す
シフトダウン左人指し指〜薬指でシフトレバーを倒す右人指し指〜薬指でシフトレバーを倒す

字面でもうシマノが複雑に見えると思うのですが、実際使った印象もこの2つの表から受けるのとそっくりです。カンパのほうがシンプルで操作しやすい

カンパは4つの変速操作を異なる4種の指の動きに割り当てているのに対して、シマノは2本のレバーを引き分けることで4つの変速操作を実現させています。カンパが優れているのは、身体と操作を一対一対応させているところです。シマノだったころは「レバーをどう引き分けるか」を判断する一瞬がありましたが、カンパは本当にただ指を動かすだけ。少しだけ脳直な作りになっています。

「親指で押し込む」という操作は「人指し指〜薬指でシフトレバーを倒す」という操作より若干カロリーが低かったりもします。なので、親指に割り当たっているのがフロントシフトダウンとリアシフトアップなのもうまいと思います。この2つの操作のほうが速度への影響が大きい場面が目立つので、若干でも脳直で操作できることに確かに意味がある。

たとえば、アップダウンの激しい道。上りに入るときは、フロントから落としたほうがいいはずです。アウターではいずれ失速するのでどこかで落とす必要がありますし、フロントを落とせばとりあえず一気に軽くなるのでリアを調整する時間を稼げます。

上りから下りに転じる際にはピーク手前でまずリアを少し上げてスピードを乗せるんじゃないでしょうか。それからフロントを変速→下り始めたらリアを一気に上げる、と変速していく。

フロントに関してはシフトダウンが、リアに関してはシフトアップがちょっとだけ優位。カンパはそれに対応した作りになっています。

「ちょっと」が積み重なって変速はシマノ時代より格段に楽になりました。自分は元々、細かく変速して体力マネジメントをするタイプでしたが、勾配や風の微妙な変化に応じて手が動き、勝手にちょうどいいギアに合わせてくれる、といった感じになっています。

シマニョーロ(レバーだけカンパ)にする人がいるのも納得しました。

「急ブレーキが効かないブレーキ」が妙に扱いやすい

ブレーキも大きなちがいを感じ、そして戸惑った部分です。高速からゼロまで一気に落とせない(急ブレーキが効かない)ようになっていたからです。

しばらくのあいだどうしてそうなっているのか理解できずにいましたが、使っているうちに下りなどでの速度コントロール(当て効き)のしやすさを重視しているのかな、と。

シマノのブレーキは少ない力でよく効きますが、裏を返せば少しレバーを引けば敏感に反応するということ。

急勾配・急カーブが繰り返し登場するシビアな下りでこれがわりかしストレスでした。そもそもライン取りなどに集中しないといけないのに、丁寧にブレーキを引かないと減速しすぎてテンポが悪くなるという。自分が引くコースにはキツめの下りが毎回入ってくるので、こういう神経質さに付き合うのはしんどかった。

カンパは良くも悪くも真逆です。効かせたかったらかなり強くブレーキを引き続けないといけません。ぱっと聞くと「ヤバない?」となると思いますし、自分も未だに「それってどうなの?」と思うのですが、どの程度引けばどの程度効くというのは逆にわかりやすいです。ちょうどいい速度・テンポで下っていきやすいという。

雑味が減った

乗り味も変化しました。クランクがカーボン製だったり、形状が異なることの影響ではないかと思われます(今回はコンポーネント以外は変えていない=乗り味への影響が大きいフレーム・ホイール・タイヤは据え置きなので、原因はコーラスしかありません)。

組み付けたフレームはロングライド用(エンデュランス系)で、強すぎる踏力に対してはたわんで力を逃がし、疲労を軽減する設計になっています。このたわみは平坦巡行時にはいいのですが、ヒルクライムでは思うように進まず、ストレスになっていました。

コーラスへの換装後、こういった感じは完全に消滅。「若干硬くなってダイレクト感が増した」というと機材レビューらしいでしょうか。

105の上にアルテグラとデュラエースがあるように、コーラスの上にはレコード・スーパーレコードがあります。立ち位置が似ているわけですが、感触は1−2段上質になりました。

(比較対象が一桁万円台で買えた旧105なので、最新の105と比べるとまたちがった感想になるとは思います)

12速の48/32T×11-34Tという個性。快適で走りの幅も広がる

元々使っていたのが10段変速だったので、12段変速にはシンプルに感動しました。その場その場で最適なギアを選びやすくなり、しんどさ(主観的強度)をコントロールしやすくなりました。「速度を重視してハードに走る」と「苦しくないように走る」を選ぶ権利が常にある感じ。

チェーンリングは48/32Tを選択、これはコーラスにしかない歯数構成で機能面ではいちばん目玉となる部分と思います。従来は50/34Tが「いちばん楽ができるチェーンリング」でしたが、それより一回り小さくなっています。この一回りが舗装路主体で走る自分には絶妙にはまりました。

スプロケットは11-34T(11-12-13-14-15-16-17-19-22-25-29-34)を選択しています。

10速の50/34T×11-28Tから乗り換えたので、上りが楽になりすぎて笑ってしまいました。

泊まり用の荷物を積んでカメラを担いでいても、インナーロー(32T×34T)を使えば斜度15%で心拍が上がりきらないです。「苦しくなく上る」がとにかくやりやすい。泊まりがけで山越えするライドでも山間部の景色を堪能するだけの余裕があります。

グラベルキングなどの「耐パンク性を強化した代わりに少し重いタイヤ」を履いても上りがいける、というのも良いです。舗装荒れ気味の林道やフラットめの砂利道あたりは安心して突っ込めます。

従来のロードバイクに比べてわずかにグラベルロードに寄った感じで、見かけた裏道に突っ込んで遊ぶ、みたいな走り方と非常に相性が良いです。

12速は変速1段ごとのギア比の変化が小さく、負荷を非常に細かく調整できるため、走行距離が長くなっても平均時速を維持しやすくなりました。

風向きや勾配が微妙に変化し続ける、みたいな状況でも脚に合うギアがほぼ確実にあるので、踏みすぎることが本当になくなりました。脚が終わりにくく、わりといつまでも走ってられます。ライド翌日以降の疲労感もマイルドです。

予想外だったのが、街乗りが楽しくなったこと。構成上、中〜低速で走れるギアが豊富で、歩行者が多い住宅街などをぬるっと抜けやすいです。小回りがよく効くようになりました。ミニベロっぽい楽しみ方もできます。

舗装路主体でさまざまな道を走るスタイルとコーラスの48/32T×11-34Tは抜群に相性がいいです。ロングライドもヒルクライムも、ツーリングもシティライドも、ある程度までであれば未舗装路にも対応できます。苦手なのはサーキットレースくらいな気がします。

自分は「乗り倒すロードバイク」が1台あれば良いというタイプ、理想的なコンポーネントでした。

ちなみに、変速そのもののスピードや正確性は、よく言われるようにシマノに劣ります。1段1段変えるときはわりと定期的にミスります。レース専用のバイクを組むなら自分でもシマノにしそうです。

コーラスを買って得られるもの

ここまでカンパの各パーツについて紹介してきました。相応にいいものだよ、というのが言いたいことですが、「別にシマノでよくない?」を覆すほどではない気がします。

買う前に困ったのがこの点です。スペック表やらレビューを見ても「じゃあカンパにしよう!」とは別にならなかった。

ところが、意を決して買って使ったら、なるほどとなりました。確かにすごくいい。コーラスで組み直した愛車はまるで別物になっていました。

それなのに、いくら観察しても「コーラスの良さはこうだ」とわかりやすく語れる部分がありません。良いのに語れない。そんなことで購入後も悩まされることに。

結局、コーラスの良いところは何なのか。本稿最大のテーマに入っていきましょう。

走っているときの「心の余裕」を買う

突き詰めると、カンパが優れているのはトータルでのフィーリング──得られる走行体験です。これまで語ってきたような些細な差が積み上がって、全体としては決定的なちがいが形成されていました。

いちばん変わったなと思うのが、走行中にとにかく余裕ができたこと。交通状態や路面の状態、同行者の様子、景色などが驚くほどよく見えます。運転に緊張感が出る高速域ほど、疲労が蓄積してゾンビ化が始まっているときでさえ視野が広いままです。

「周囲をよく見て走る」という公道走行の基本の基本に、体力の限界に挑むようなライド中でも忠実でいられます。急ブレーキが効かない理由もなんとなくわかりました。結局のところ、二輪は危険を急ブレーキで回避しきれない。だからよく見ろ。見えるようにしてはある。そんな感じなのだと思います。

もちろん、走りたいとわざわざ足を運んだ土地の雰囲気もより深く感じられます。自分としてはこれがいちばん嬉しかった。

荒れているなら廃れていく道なのかなと思える。沿道に珍しい看板があるのに気づける。野焼きをしているのを眺めている人と目が合って会釈ができる。太陽がどこにあり、何を照らしているのかがわかる。この世界の片隅にある些細なものに触れる余裕がある。走っている時間が虚無ではない。

105を使っていたころは、ギアは適切か、変速はどこでするか、ブレーキをどこまで引くか、といった細かい操作にもっと注意がいっていました。旧105のフィーリングは、今思い返すとマン・マシン・インターフェース的です。良く言えば、最高の走りに集中させてくれるということですが、その分見えにくくなるものもあって、乗り手をロードバイクを走らせるパーツに変えるようなところがありました。

拡張された身体としてのロードバイク

カンパの方向性はシマノとは真逆です。乗り手がロードバイクに取り込まれるのではなく、ロードバイクが乗り手の身体の一部になる感じ。

自分がどの程度疲労しているのか、このペースで完走できるかなども感覚的に理解できています。サイコンは見なくなり、以前から欲しかったパワーメーターは別にいらないな、と思うようになりました。本能のまま走っているときでも、体力の配分は驚くほど的確です。

余裕がない状況ほど、見えている感じがします。コーラスにしていちばん楽になったのは下りです。前よりライン取りが正確になり、ブレーキング自体があまり必要なくなりました。

カンパが作っているのは古き良き道具なのだと思います。コーラスで組み直した愛車は、どこまでも感覚的で身体的な乗り物になりました。

ただ走るだけでもびっくりするほど気持ちが良い。ロードバイクに初めて乗ったときの、羽のように軽くてどこまでも行けそうな感じ──レースで勝ちたい・ロングライドに出たい、すべての遊び方の原点になるあの感じがいつも味わえる。そういう良さがあります。

良いものではあるけれど

問題があるとすれば、そうした良さに納得できるのは「身銭を切って買って乗ってから」なことに尽きます。良さがあまりにも感覚的すぎ、買う前にその魅力を想像するのは正直難しいと思います。試乗ではここまで腑に落ちませんでした。

12速のコンポーネントとしては安いですが根本的に高価。買う敷居は非常に高いと思います。新105のほうが高価でなければ、11速シマノ製コンポーネントの市場在庫が枯れていなければ、たぶん自分も買っていませんでした。

いろいろな意味で“冒険”が好きな人向きかなと思いますが、少なくとも自分はとても楽しめています。

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書いた人

たまに東京を脱出しないとSAN値が保ちません。

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